1. 楮 (Kozo: Paper mulberry)
楮はクワ科カジノキ属の木本性靭皮(じんぴ)利用植物の総称です。カジノキ、ヒメコウゾ、ツルコウゾの3種類があり、3 m位の高さに成長します(Photo.1)。
成層の外側の靭皮部に含まれる繊維の強度が高く、日本では和紙原料に古くから使用されています。繊維は6 ~21 mmと長く、得られるパルプの色は白色です。
年代が分かっている最古の国内製造紙とされる702(大宝2)年の正倉院所蔵の戸籍断簡には、楮が原料として使用されています。和紙の代表的な原料として、楮、雁皮、三椏の3種類の靭皮利用植物が知られていますが、中でも楮は最もポピュラーな原料です。
中国の後漢書蔡倫伝には、西暦105年に蔡倫が紙の原料として樹膚を使用したと記録されていますが、樹膚は楮の一種のカジノキと考えられています。
2. 楮のパルプ化 (Pulping of Kozo)
原料の植物を製紙利用するためには、繊維を含んだ植物体を細胞レベルにまで解繊して一本一本の繊維を解きほぐす必要があります。この工程がパルプ化です。
楮は靭皮部から得られた白皮を弱アルカリ性の性質を持つ木灰を加えて常圧で煮ることで、容易に白色度の高いパルプ化できることが特徴です(Photo. 2)。現在の製紙技術では、漂白薬品などを使用してパルプの白色度を高くすることができますが、昔は楮から得られる真白いパルフが貴重な材料であったと想像されます。
(白妙と木綿)
楮繊維で織られた布は色が白く、白妙(しろたえ)の名称で知られています。万葉集の和歌に詠まれた「春過ぎて夏来にけらし白妙の衣ほすてふ天の香具山」の白妙は、楮の繊維で織った布のことです。また、楮の繊維から作られた糸は、木綿(ゆう)と呼ばれて神事に用いられました。良く知られているアオイ科の木綿(もめん)(cotton)とは全く異なりますが、同じ漢字なので混同し易いです。
(参考)Photo. 3 紙製の白い御幣
3. 楮紙の生産性 (Productivity of Kozo paper)
927(延長5)年に編集された延喜式図書寮の項は、日本に現存する最も古い製紙技術の記録です。図書寮は、大宝律令の中の図書の保管や書写に関わる行政組織で、当時は貴重製品であった紙の製造を担当していました。延喜式図書寮の項には、楮(Kozo)などの各和紙原料のl日当たりの製造数量の基準が記されています。原料は、布(麻製の織物)(Hemp rag)、楮(Kozo)、麻(Hemp)、雁皮(Gampi)、苦参(くじん)(Kujin)の5種類で、製造工程は順に、煮(Cooking)、択(Removal of contaminants)、截(せつ)(Cutting)、舂(しょう)(Beating)、成紙(Sheet making)です。楮は1日当たりの製造数量(g)の数値が高く、生産性が高い原料だったことが分かります(Table 1)。
3. 楮紙の特徴 (Properties of Kozo paper)
楮は和紙の代表的な原料として、明治以降に木材パルプが普及するまでの何百年もの間、日本の製紙産業において製紙原料の主役の座を占めました。ユネスコ無形文化遺産に登録されている島根県の石州半紙、岐阜県の本美濃紙、埼玉県の細川紙は、いずれも楮製です。
長く強靭な繊維を用いた楮紙は、強度と耐久性が高く、得られる紙が白いことが特徴です。日本古来の筆墨にも適した紙です。江戸時代の紙幣として藩札がありますが、ほとんどの藩札用紙の原料には楮が使用されていて,楮幣とも呼ばれていました。
4. 楮に関する近年の研究(Research about Kozo in recent years)
抄紙方法1)と煮熟方法2)の湿潤強さへに及ぼす影響を調査した研究報文
1) Inaba.M., Hasegawa, S., Handa, M., Enomae, T., Takashima, A., Han, Z. and Someya, S. : Effect of Sheet Forming Method on Wet Tensile Strength of Usu-mino-gami(Japanese Kozo Paper) , JAPAN TAPPI JOURNAL, 73(6), 559(2019)
2)Han, Z., Kida, K., Handa, M., Inaba, M.: Effect of Cooking Method on Wet Tensile Strength of Kozo Paper, JAPAN TAPPI JOURNAL, 74(9), 921(2020)