FAO(Food and Agriculture Organization of the United Nations)の統計データによると、2023年の世界全体のパルプ生産量は、木材パルプ(mechanical, semi-chemical and chemical wood pulp)約184Mtに対し、非木材パルプ(Pulp from fibres other than wood)が約11.2Mtであり、全体の約6%が非木材パルプとなっています1)。非木材パルプの生産量は、1995年の2.50Mtをピークに2010年代にかけて長期的な減少傾向にありました。しかし、近年は横ばい傾向となっており、2023年は2022年の11.1Mtから若干の増加が見られます。
 非木材パルプの使用形態としては、(a)非木材繊維の特徴的な用紙物性を活かした用途、(b)木材パルプを原料とする用紙と同様の用途に分けられます。(a)の用途の代表例としては紙幣用紙が挙げられ、用紙が特徴的な物性を有することから不可欠な需要のある製紙原料となっています。(b)については、経済性及び原料調達等の理由により木材パルプへの代替が進んだと考えられます。セルロース繊維を含んだ各種の植物バイオマスは技術的には製紙原料として利用可能ですが、事業化するためにはパルプ化等の技術的課題以外に原料調達や採算性などの課題が存在します。
 地球上には、それぞれの地域の環境に適応した多様な植物が生育しており、非木材の製紙利用植物の中には我々の生活に身近なものもあります。農業副産物としての非木材バイオマスも多く存在しており、これらの非木材原料を有効活用することは、農村や山村の活性化、地球温暖化の防止及び循環型社会の形成に貢献するものです。近年は、SX (sustainable transformation)等に代表される環境保全のための持続可能な取り組みが始められており、カーボンニュートラルな性質を有する各種植物繊維の利用に、培われてきた各種製紙技術が活用されることを期待します。

1) FAO.FAOSTAT, Forestry Production and Trade, 12/18/2024