1. 穀物の農業副産物(Agricultural by-product of grains)
イネ科(Poaceae)の植物は、古くから穀物(Grains)として食用に栽培されています。世界三大穀物(Top 3 grains in the world)、とうもろこし、小麦、米の生産が多く、これらの種子にはでんぷんが多く含まれています。2023年度の世界の生産量は、とうもろこし(Corn) 1,224,326kt、小麦(Wheat) 790,540kt、米(Rice) 520,648ktです1) (Table 1)。
小麦を採取した後の茎を乾燥したものが小麦わら(Wheat straw)、米を採取した後の茎を乾燥したものが稲わら(Rice straw)です。その他、大麦わら(Barley straw)、ライ麦わら(Rye straw)などもあります。これらは農業副産物として発生し、製紙原料としての利用が可能です。
わらのリグニン含有量は、稲わら12.5%、小麦わら10.4%、大麦わら14.5%、ライ麦わら18.7%と、木材と比較すると少ない数値ですが、楮(Kouzo)3.5-8.5%や雁皮(Gampi)3.8%と較べると多くなっています2)。そのため、パルプ化法としては、一般にソーダ法、亜硫酸塩法、クラフト法などの化学的方法(Chemical Process)が用いられます。また、化学的方法(Chemical Process)と機械的方法(Mechanical Process)を併せた方法として、アルカリ薬品と2軸押出機(Twin screw extruder)を用いるパルプ化もあります3-6)。
わらには、ペントサン、灰分、雑細胞が多く含まれており、パルプ化して得られる繊維は細く短く、木材と比較してアスペクト比が高いことが特徴です。得られる紙は、地合いが均一で印刷適性に優れますが、強度は低く、特に引裂き強度が低いです。
2. 稲(Rice)
稲(Oriza Sativa)はイネ科(Poaceae)イネ属(Oryza)の1年生草本です。紀元前数1,000年前から、食用に栽培されていたと考えられています。
玄米100kgに対して、稲わらは約160~190kg発生します。米を主食とする日本では豊富な原料であるため、明治時代には稲わらを原料とした紙が量産されていました。
稲わらの繊維長及び繊維幅は、それぞれ0.5~2.0mm,10~15μmと細く短いことが特徴です。セルロール以外の主な化学組成は、リグニン12.5%、ペントサン24.0%、灰分5.8%です6)。木材パルプと比較して、叩解が進みやすいことが特徴です。
3. 小麦(Wheat)
小麦(Triticum aestivum)はイネ科(Poaceae)コムギ属(Triticum)の1年生草本です。原産地は西アジアとされています。米、トウモロコシと並ぶ世界三大穀物の一つです。15,000~10,000年前には、すでに食用として栽培されていたと考えられています。
セルロース以外の主な化学成分は、リグニン10.4%、ペントサン31.7%、灰分7.6%であり、稲わらと組成が似ています6)。叩解についても、稲わらと同様に進みやすいことが特徴です7)。
1)USDA PS&D Online data
2)Research Institute of National Printing Bureau, Japan: Special Issue on Non-wood Pulp (1976)
3) A. T. Harris, S. Riddlestone, Z. Bell, P. R. Hartwell: Journal of Cleaner Production, 16 1971-1979(2008)
4) A. Talebizadeh, P. Rezayati-Charani: BioResources, 5 (3), 1745-1761 (2010)
5) H. Pirmahboub, A. Talebizadeh-Rafsanjani, P. Rezayati Charani, R. Morvaridi: Cellulose Chemistry and Technology, 49(5-6), 485-495(2015)
6) D. Theng, G. Arbat, M. Delgado-Aguilar, B. Ngo, L. Labonne, P. Evon, P. Mutjé: Industrial Crops & Products, 107 184-197 (2017)
7) Sanchuan Guo, et al.: Pulp and Fiber Characterization of Wheat Straw and Eucalyptus Pulps, BioReources 4(3), 1006(2009)