植物の体内では、太陽光と二酸化炭素(CO2)と水(H2O)から光合成によってグルコースが作られ、酵素の働きによってセルロースを始めとする成分が生合成されます。セルロース分子は数nm幅の細長い束に集合してミクロフィブリルを構成します。さらに、ミクロフィブリルは束となって、すき間を埋めるヘミセルロース、リグニン、ペクチンなどとマトリックスを構成して強固な細胞壁を形成します。植物繊維と細胞を取り巻く模式図は、Fig.1のようになります。
細胞壁の構造は、大きく一次壁(primary wall)、二次壁(secondary wall)に分けられます。
一次壁は、細胞の成長時に外側に作られる薄い細胞壁です。リグニン含量が多く、ミクロフィブリルは網目状で緩んだ状態になっています。
二次壁は、細胞の成長後に一次壁の内側に形成され、外層(S1)、中層(S2)、内層(S3)で構成される厚みのある3層構造になっています。ミクロフィブリルは互いに平行に、螺旋状になって繊維状の細胞を被覆しています。二次壁はセルロース含有量が多く、製紙用繊維として重要な部位となります。3つの層の中で、最も厚みがあるのが中層(S2)です。中層(S2) のミクロフィブリルは、繊維軸の縦に近い角度に配向して縦方向の強度に寄与しています。外層(S1)と内層(S3)のミクロフィブリルは、繊維軸に対して横方向に傾斜して配向し、中層(S2)をサンドイッチする構造となっています。
細胞壁の構造は、軽量で強度と断熱性が高く、地上の植物体の支持体となり水分の通水も可能にしています。我々はこれらの材料を、古くから繊維製品や建材などに利用してきました。植物の生合成によって生み出される繊維の構造には、生命の奥深さを感じます。
近年は、これら細胞壁の利用方法として繊維をナノレベルにまで解繊して得られるナノセルロース(NC)類の研究も進んでおり、アスペクト比の高いセルロースナノファイバー(CNF)は新素材として注目されています2)。
1)Hiroshi Hori: Practical work for small lot paper production, Shigyo times(1983)
2)Isogai, A.; Saito, T.; Fukuzumi H.:TEMPO-oxidized cellulose nanofibers, Nanoscale 2011, 3, 71