1. 竹(Bamboo)
竹はイネ科(Poaceae)タケ亜科(Bambusoideae)の多年生単子葉植物の総称です。亜科は科と属の間の分類で、タケ亜科は日本だけで約130種類あるとされます。竹は茎が木のように固くなりますが、稲やさとうきびと同じイネ科の植物です。茎にはイネ科の特徴である節が有ります。
生育地域は熱帯、亜寒帯、温帯と小型のササについては寒帯地方にまで分布しています。成長が早く製紙利用に適しているため,中国では古くから利用された製紙原料です。繊維長は同じイネ科のわらよりも長く、マダケ(Phyllostachys Sieb. et Zucc.)の場合で繊維長0.21~3.7mm,繊維幅6~35μmです1)。
2. 天工開物のパルプ化技術(Pulping technology of Tenkokaibutu)
17世紀に刊行された中国の産業技術全書「天工開物」(宋應星)には、竹のパルプ化方法が記されています。原料が豊富な竹は、唐の時代(618-907年)に製紙原料としての利用が始まり、宋の時代(960-1297年)には竹製の紙が大量生産されました2)。
現在はクラフト蒸解などの蒸煮技術を用いて竹パルプが製造できますが、靭皮繊維と異なり、近代的化学工業が発達する以前のマイルドな条件では竹のパルプ化は容易ではありませんでした。
作家の水上勉氏が天工開物の方法で竹紙製造を試みており3)、パルプ化手順を簡略化すると1~7の工程になります。
1.山から切り出した竹の茎を100日以上水に浸漬
2.川にさらして臭気を除去
3.石灰を塗り8日間釜で蒸煮
4.水で洗浄
5.灰汁に浸漬して蒸煮
6.冷却後に灰汁を加えて蒸煮を約10日繰り返す
7.臼で叩解
それぞれ相当な時間と労力がかかる工程になっています。技術開発には多くの時間が必要だったと考えられますが、豊富に得られる竹を原料として紙の大量生産が可能になりました。
ヨーロッパでは、19世紀中ごろに木材をパルプ化して紙を量産する方法が発明されましたが、今から1,000年以上前の時代に数々の工夫を重ねて紙の量産を実現した知恵には驚かされます。当時の情報伝達手段として紙は最も有効なメディアだったと考えられ、広大な中国の領土を治めるために、紙は貴重で大量に必要とされていたことが想像されます。
2. 間伐材の有効利用(Utilization of thinned bamboo)
竹は野生に育成する植物ですが、農産物として地下にある茎からタケノコが収穫できる植物です。良質なタケノコを生産するためには、5年生以上の古竹を伐採して竹林を整備する必要があり、間伐材が農業副産物として発生します。
鹿児島県薩摩川内市では、間伐された竹を製紙原料として有効利用することにより、里山の保全を図るとともに循環型社会を目指す取り組みが行われています。間伐材はチップ化され、クラフト蒸解によってパルプ化されます。得られるパルプの繊維長は、広葉樹パルプより長く針葉樹パルプより短く、未晒パルプの強度的特性は、広葉樹材パルプより高く針葉樹パルプより低いこと等のデータが報告されています4-6)。
1)印刷局研究所「非木材パルプ特集」(1976)
2)久米康生: 造紙の源流, 雄松堂出版(1985)
3)水上勉: 竹紙を漉く, 文春新書(2001)
4)川田正人:地球環境に貢献する紙作り-竹林からの紙作り-,紙パ技協誌,63(1),61(2009)
5)二ノ宮秀盛:バッチ釜による樹種別パルプ生産,紙パ技協誌,65(4),348(2011)
6)布施好祟:バッチ釜による竹パルプ製造,紙パ技協誌,66(10),1098(2012)
1) Research Institute of National Printing Bureau, Japan: Special Issue on Non-wood Pulp (1976)
2)Yasuo Kume: The origin of papermaking, Yushodo shuppan(1985)
3)Tsutomu Mizukami: Making of Bamboo Paper, Bunshunshinsho(2001)
4) Masato Kawata: The Making of Paper Contributes to Local Environment, JAPAN TAPPI JOURNAL, 63(1), 61(2009)
5)Hidemori Ninomiya: The Variety Eco-wood Pulp Prodiction by Batch Digester, JAPAN TAPPI JOURNAL, 65(4), 348(2011)
6)Yoshitaka Fuse: The Bamboo Pulp Production by Batch Digester, JAPAN TAPPI JOURNAL, 66(10), 1098(2012)