1. アバカ(Abaca)
 アバカ(Musa Textilis Née)はバショウ科(Musaceae)バショウ属(Musa)の多年生草本植物です。主な産地はフィリピンで、別名マニラ麻とも呼ばれます。約2~3年で成熟して6m余りの高さに生育し、茎のように見える葉鞘から繊維が得られます。葉鞘部の直径は18~40cmになります。
 外観は同じバショウ属のバナナ(Musa cavendishii Lam., Musa Sapientum Linn., etc.)に良く似ていますが、実はバナナと較べると小さくて丸く、先が細くなっています。バショウ属の中では耐寒性が高く、日本でも観賞用に育てられる芭蕉(バショウ)(Musa basjoo Sieb. et Zucc.)も外観が似ています。
 アバカは紙幣にも用いられるバショウ属の中では最も良く知られた製紙原料ですが、バショウ属には強度の高い繊維を有する種類が多く存在します1)。沖縄には芭蕉布を製造する技術が残されており、芭蕉布の繊維を採取する植物が糸芭蕉(Musa liukiuensis Makino)、バナナの実を付ける植物が実芭蕉と呼ばれています。
 バショウ属の植物は東京都内でも時折見られます(Photo.1, Photo.2)。

Photo.1 都内で見られるバショウ属植物
(Musa species in Tokyo)
Photo.2 バショウ属植物(Photo1)の実
(Fruit grown on Photo. 1 Musa species)

2. アバカのパルプ化 (Pulping of abaca)
 葉の下部の茎のように見える部分は、三日月形状の断面を有する葉鞘が層状になっています。葉鞘部をくし状の器具で割いて、外皮と中間層を除去しすることにより細長い繊維状の原料が得られます。アバカ(Musa Textilis Née)繊維のグレードは、フィリピンナショナルスタンダード規格Philippine National Standard (PNS/BAFS 180:2016)によって決められています。
 アバカのパルプ化方法の研究は第二次大戦後に本格的に取り組まれ、亜硫酸ソーダ蒸解法が開発されました2)。亜硫酸ソーダ蒸解によって得られるアバカパルプは、白色度が高く叩解処理が容易で耐久性及び強度の高い用紙が得られることが特徴です。
 アバカの葉鞘部からは強靭な繊維が得られるため、長年ロープや漁網の原料として利用されていました。しかし、戦後の高分子化学工業の発展により、ナイロン等の新しく登場した合成繊維に代替されることとなります。ちょうどその頃にアバカの亜硫酸ソーダ蒸解法が開発されており、紙幣用紙をはじめとした製紙利用にアバカ原麻の用途転換が進みました。
 アバカ製の用紙は強度と耐久性が高く、現在は紙幣をはじめとして、ティーバッグ、電解コンデンサ紙などの用途に使用されています。

1)Hidehiko yamazaki, Toshio Kurita, Kazumasa Miyazaki, Hidehisa Yokomizo, Masakazu Morimoto: Pulping and Papermaking Properties of the Fibers from Abaca (Musa Textilis) and other Musa Species, JAPAN TAPPI JOURNAL, 34(4), 299(1980)
2)Hiroshi Hori, Kazuo Kosukegawa, Masakazu Morimoto: Monosulphite Cooking of Manila Waste Rope, JAPAN TAPPI JOURNAL, 13(2), 107(1959)